薬機法の課徴金制度とは?施行目的と対象・対策までわかりやすく解説
薬機法の課徴金制度とは?
2021年に新たに導入された「薬機法の課徴金制度」は、医薬品や医療機器、化粧品、そして健康食品の広告表示において、虚偽または誇大な表現によって得た売上に対し、国が金銭的な制裁を課す制度です。
これまで薬機法の違反に対しては、行政指導や業務停止命令といった措置が主流でしたが、それだけでは十分な抑止効果が働かず、繰り返し違反する企業が後を絶たないのが現状でした。
この制度の導入により、違反によって得られた不当な利益に直接メスを入れ、「やった者勝ち」にならないような厳しい体制が整えられたのです。
なぜ課徴金制度が導入されたのか?
違反が減らない現状への対策として
インターネットやSNSの発展により、広告表現は多様化し、情報が一瞬で拡散されるようになりました。その結果、誇大な広告や科学的根拠に欠けた効果をうたう表現が急増し、薬機法違反の事例が減少するどころかむしろ増えているのが実情です。行政側もこの状況を重く受け止め、より直接的な制裁が必要だと判断しました。
許認可の停止だけでは不十分だった
薬機法では、本来、医薬品や医療機器を販売するには厚生労働大臣の許可が必要ですが、広告表示の違反だけではその許可を取り消すのは難しく、現場では抜け道となっていたのが事実です。許可や認可の継続を維持したまま、違法な広告で集客・販売を続ける業者が存在していたことが、制度見直しの後押しとなりました。
経済的なペナルティの必要性
従来の指導や命令では、企業にとっては“やったもの勝ち”になりかねず、一度違反表示で売上を得てしまえば、それがそのまま利益になるという歪んだ構図が残っていました。課徴金制度は、違法表示によって得た売上を「ごっそり持っていく」ことで、抑止力を経済的に確保する新しい手段となっています。
どんな場合に課徴金の対象になるのか?
対象となるのは、主に「虚偽・誇大な広告表示」によって消費者を誤認させ、売上を得た場合です。たとえば、「このサプリを飲めばがんが治る」「1日1粒でウイルスを完全ブロック」など、明らかに医薬品的な効果をうたっている広告はNGです。
また、販売された商品の形状や見た目が、まるで医薬品であるかのように消費者に誤解を与えるものだった場合も、表示だけでなく形状自体が問題となることがあります。こうした表現によって実際に売上があった場合、その金額に応じて課徴金が課されるのです。
課徴金納付命令が下されるまでの流れ
違反が疑われる広告が見つかると、まずは都道府県や厚生労働省による調査が行われます。広告表現と販売実績との因果関係が確認されると、該当商品の販売データや広告期間に基づき、課徴金の算出が行われます。
その後、正式な「課徴金納付命令」が発出され、企業は指定された期間内に支払い義務を果たさなければなりません。支払いが行われない場合は、滞納処分や法的措置が取られる可能性もあります。
景表法とどう違う?薬機法の課徴金制度の特徴
似たような制度に「景品表示法(景表法)」の課徴金制度があります。こちらも誤認表示に対して課徴金を科す仕組みですが、景表法は「優良誤認」や「有利誤認」といった“消費者にとっての損得”にフォーカスした法律です。
一方で薬機法は、「健康被害を引き起こしかねない表現かどうか」が問われるため、対象となる商品のジャンルや表現のニュアンス、科学的根拠の有無など、より厳密に審査されるのが特徴です。
免除や減額されるケースもある?
すべての違反に対して必ず課徴金が科されるわけではありません。企業が違反に気づいた後、すぐに広告の取り下げや商品回収などの対策を講じた場合や、行政調査前に自主的に対応した記録がある場合は、課徴金が減額または免除される可能性があります。
また、販売データに基づき「広告によって得られた利益が明確でない」と判断されるケースや、違反が軽微であると認定された場合にも、課徴金は発生しないことがあります。大切なのは、誠実な対応と事前のチェック体制です。
企業が今すぐ行うべき薬機法対策
薬機法の違反は、「知らなかった」では済まされません。自社で扱う製品の広告文、キャッチコピー、パッケージ表示など、あらゆる訴求ポイントが規制対象となります。現場の担当者だけで判断せず、社内で薬機法に詳しい専門スタッフや顧問弁護士、外部の薬事コンサルタントと連携することが不可欠です。
また、新商品や新キャンペーンを展開する前には、必ず薬機法チェックを事前に実施し、リスクを最小化する体制を整えましょう。社内研修を定期的に行い、薬機法のアップデートにも敏感でいることが、企業価値を守るための基本姿勢となります。
まとめ:課徴金制度は“知らなかった”では通用しない時代へ
薬機法の課徴金制度は、違法広告による“もうけ”を確実に回収し、企業に違反のリスクを明確に意識させる新たなルールです。広告や表現におけるルールは年々厳しくなる一方で、消費者の目もますますシビアになっています。
だからこそ、いま企業に求められているのは「売れればいい」という短期視点ではなく、「正しく伝えることで信頼を積み上げる」という長期的なブランド戦略です。薬機法対応は、企業姿勢そのものが問われる時代に突入しています。